トリプタノールってどんな薬なの?
緩和ケアチームの看護師さんからこんな質問がありました。
がん疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用中に突然、トリプタノールが処方され疑問に思ったそうです。
トリプタノールは三環系抗うつ薬(TCA)という分類の抗うつ薬です。
では、なぜ抗うつ薬が痛みを和らげる目的で使われるのか疑問に思いますよね。
ということで、この記事では緩和ケアで鎮痛補助薬として使われるTCAについて超超超基本的なことを解説します。
この記事の筆者は病院薬剤師として14年働き、緩和薬物療法認定薬剤師です。
TCAについてあまりよく分からないなと思っている薬剤師や看護師の少しでも役に立てばなと思います。
鎮痛補助薬としての抗うつ薬
鎮痛補助薬*にはいろいろ種類がありますが、その1つに抗うつ薬があります。
抗うつ薬の中でも三環系抗うつ薬(TCA)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が鎮痛補助薬として使われます。
*鎮痛補助薬とは主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物
抗うつ薬はSNRI作用により、脳から脊髄への下行性疼痛抑制系を活性化して末梢から運ばれてくる痛みの伝達量を抑えて鎮痛効果を示します。
鎮痛作用は抗うつ作用よりも少ない用量で発現し、抗うつ作用は週単位で効果が出現しますが、鎮痛作用は1週間以内に現れます。
抗うつ作用により痛みが和らぐのではなく、抗うつ薬自体に鎮痛作用があります。
三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressant:TCA)
TCAはうつ病の治療に用いられる薬の1つです。
脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きを改善することで、抑うつ気分や意欲の低下などを改善します。
TCAの鎮痛効果はSNRI作用とNa⁺チャネル遮断作用によるものです。
SNRI作用
SNRI作用は脳内の神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンを増やします。
そのSNRI作用により、脳から脊髄へと向かう下行性疼痛抑制系が活性化され、末梢から運ばれてくる痛みの伝達量が減り、鎮痛効果が得られると考えられています。
Na⁺チャネル遮断作用
末梢神経が障害されるとそこで炎症が起こり炎症が長期化するとNa⁺チャネルが過剰に発現します。
過剰に発現したNa⁺チャネルが神経を興奮させることで痛みを感じます。
Na⁺チャネルを遮断することで神経の興奮がなだめられ痛みが和らぎます。
トリプタノールとは?
鎮痛補助薬として代表的なTCAにトリプタノール(成分名:アミトリプチン)があります。
下記にアミトリプチンの投与量(目安)を記載します。
開始量 10mg/日(寝る前)
維持量 10〜75mg/日 1〜3日毎に副作用がなければ、20mg→30mg→50mgと増量
TCAの注意点
TCAの使用にあたり注意することがありますので、副作用と相互作用の点から解説します。
副作用
TCAの副作用には以下のものがあります。
- 抗コリン作用による口渇、便秘、尿閉。
- 抗ヒスタミン作用による眠気、ふらつき。
- 抗アドレナリン作用による起立性低血圧。
TCAを開始する前は、「前立腺肥大で尿が出にくくないか」「緑内障がないか」「心疾患の既往がないか」を問診で確認しましょう。
相互作用
薬物相互作用、いわゆる薬の飲み合わせに注意が必要です。
パーキンソン病の薬のMAO阻害薬やうつ病の薬のSSRIと併用するとセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。
ですので、TCAを開始する前には併用薬の確認が必要です。
まとめ
今回の記事では、TCAの鎮痛効果のメカニズムと注意点について解説しました。
TCAは鎮痛補助薬として有効な場合がありますが、その使用には慎重さが求められます。
薬剤師や看護師は、TCAの特徴や注意点をよく理解し、患者さんの安全と効果的な疼痛コントロールが行えるようにしましょう。
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