緩和ケアでは鎮痛補助薬を上手に使用することで、患者さんのがんによる痛みが和らぐこともあります。新人薬剤師・看護師の皆さん、いっしょに勉強しましょう。
こんにちは!病院薬剤師のMoKaです。
がん性疼痛に使用される薬といえばオピオイド鎮痛薬が思い浮かぶ医療者が多いと思います。
しかし、がん性疼痛の中にはオピオイド鎮痛薬だけでは疼痛コントロールがうまくいかない場合もあります。
そんな時に使用される薬の1つが「鎮痛補助薬」です。
鎮痛補助薬は主たる作用に鎮痛作用をもたないが、鎮痛薬と併用したり、特定の状況下で鎮痛効果を発揮する薬です。緩和ケアの分野では鎮痛薬というとオピオイドが主役のイメージがありますが、鎮痛補助薬を使用することで、オピオイドの使用量を少なくできたり、オピオイドによる副作用を軽減させることができたりします。
鎮痛補助薬全般について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ。
しかし新人薬剤師・看護師にとって鎮痛補助薬は種類や使い方が複雑で、患者さんに適切なアドバイスをするのが難しいと感じることが多いのではないでしょうか?
この記事では、私のX(旧Twitter)のポストで人気のあった3つの鎮痛補助薬(抗けいれん薬、局所麻酔薬・抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬)について、作用や注意点など重要な点に絞って解説し新人薬剤師・看護師が明日から役立つ情報をまとめています。
抗けいれん薬
シリーズ❓鎮痛補助薬
— MoKa(モカ)@病院薬剤師17年目 (@MoKahp14) May 21, 2024
☆抗けいれん薬☆ pic.twitter.com/gM1U8EnQ1r
1つ目は抗けいれん薬です。
抗けいれん薬はNa⁺チャネルやCa²⁺チャネルをブロックして神経の興奮をなだめたり、GABA神経系を活性化させ自前の防衛手段を強めたりして痛みを抑えることができます。
Na⁺チャネルを阻害する薬
Na⁺チャネルを阻害する抗けいれん薬には「カルバマゼピン」があります。
カルバマゼピンは三叉神経痛に対して適応をもつ薬ですが、その他の痛みに対しては適応はありません。
また薬物代謝酵素を誘導することや副作用(血液障害など)に注意する必要があり、鎮痛補助薬としての出番は少ないです。
Ca²⁺チャネルを阻害する薬
Ca²⁺チャネルを阻害する薬にはガバペンチノイドがあります。
ガバペンチノイドはCa²⁺チャネルα₂δリガンドとも呼ばれ、中枢神経系の電位依存性Ca²⁺チャネルのα₂δユニットに結合し、Ca²⁺の流入を抑制し神経細胞の興奮と神経伝達物質の遊離を減少させることで鎮痛効果を示します。
代表的な薬に「プレガバリン」や「ミロガバリン」があります。
副作用には眠気やめまい、ふらつきがあり、また長期に使用することで体重増加や浮腫が出現することがある薬です。
GABA神経系を活性化させる薬
GABA神経系を活性化させるには2つの方法があります。
1つはGABAの分解を阻害することでGABA濃度を高める方法です。
代表的な薬に「バルプロ酸ナトリウム」があります。
バルプロ酸ナトリウムはGABA分解酵素であるGABAトランスアミナーゼを阻害することで、GABA濃度を高め鎮痛効果を示す薬です。
もう1つはGABA受容体に作用する方法です。
代表的な薬に「クロナゼパム」があります。
クロナゼパムはGABA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用してGABAの効果を高めることで、過剰な神経の興奮を抑えて鎮痛効果を示す薬です。
局所麻酔薬・抗不整脈薬
シリーズ❓鎮痛補助薬
— MoKa(モカ)@病院薬剤師17年目 (@MoKahp14) May 22, 2024
☆局所麻薬薬・抗不整脈薬☆ pic.twitter.com/qKf105NolL
2つ目は局所麻酔薬・抗不整脈薬です。
抗不整脈薬の分類であるVaughan-Williams分類のクラスⅠb群の薬でNa⁺チャネルを阻害することで心臓の刺激伝導系の伝達速度を抑制し不整脈を抑えます。
そのNa⁺チャネルを阻害することで、神経の過剰な興奮を抑え鎮痛効果を示します。
代表的な薬は「リドカイン」と「メキシレチン」です。
リドカインは局所麻酔と不整脈に適応をもつ薬ですが、全身の痛みに対する適応はありません。ですが、全身投与することで、神経障害性疼痛を中心としたオピオイド鎮痛薬で効果がない痛みに対して使用されることがあります。リドカインは注射製剤を使います。鎮痛補助薬として注射で使用できる薬は少ないのでとても貴重な薬です。副作用として血圧低下や徐脈があります。
メキシレチンは糖尿病性神経障害による症状に適応があり有効性が示されていますが、がん疼痛に対しては適応がありません。特徴は肝初回通過効果が小さく腸管からの吸収が良好です。そのため生体内利用率が約90%と高く内服での効果が期待できます。副作用は悪心・嘔吐や食欲不振などの消化器症状があります。
NMDA受容体拮抗薬
シリーズ❓鎮痛補助薬
— MoKa(モカ)@病院薬剤師17年目 (@MoKahp14) May 23, 2024
☆NMDA受容体拮抗薬☆
アルツハイマー型認知症治療薬のメマンチンも、実はNMDA受容体拮抗薬なのです☝️ pic.twitter.com/0TkviaXjK2
3つ目はNMDA受容体拮抗薬です。
NMDAはN-methyle D-asparateの略で、NMDA受容体はグルタミン酸受容体のサブタイプの1つです。グルタミン酸は痛みの伝達における神経伝達物質で、脊髄後角での中枢性感作に重要な役割を果たしています。神経障害性疼痛ではNMDA受容体が関与していることが知られており、NMDA受容体拮抗薬を使用することで痛みが抑えられるという仕組みです。
代表的な薬は「ケタミン」です。ケタミンは手術などの麻酔としての適応をもちます。脊髄後角での痛みの伝達を抑制し、中枢性感作に伴う慢性疼痛を和らげるとともに、オピオイドの鎮痛耐性を回復することが期待できる薬です。
ケタミンは肝臓で約80%がCYP3AとCYP2B6によりノルケタミンへ、少量が4-ヒドロキシケタミンと6-ヒドロキシケタミンへ代謝され、ノルケタミンはケタミンの1/3-1/5のNMDA受容体への作用があります。
ケタミンを使用する時の注意点ですが、ケタミンは血圧上昇作用や脳圧亢進作用があるため、脳血管障害や高血圧、脳圧亢進症、重症の心代償不全の患者さんには禁忌です。
まとめ
今回の記事では鎮痛補助薬として使用される抗けいれん薬、局所麻酔薬・抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬について解説しました。
鎮痛補助薬は緩和ケアを専門としていない医療機関ではあまり見ることが少ないかもしれません。ですのでどのような作用なのか、注意することにはどんなことがあるのかなどわからないことが多いかもしれません。
本記事を読むことで、少しでも鎮痛補助薬に対する苦手意識が少なくなってほしいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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