こんにちは!病院薬剤師のMoKaです。
突然ですが、新人薬剤師や看護師の皆さん、鎮痛補助薬という言葉を聞いたことがありますか?
聞いたことない、聞いたことあるけどよく分からないという人が多いのではないでしょうか。
そんな疑問をもつ人のために緩和薬物療法認定薬剤師であるMoKaが鎮痛補助薬についての基礎知識を解説します。
- 鎮痛補助薬という言葉を聞いたことがない
- 鎮痛補助薬についてよく分からない
- これから緩和ケアについて勉強していきたい
全文読む時間がない人のために、ノート1枚にまとめたものもあるのでご覧ください。
「鎮痛補助薬」とは?
鎮痛補助薬はモルヒネやオキシコドンなどのオピオイド、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、アセトアミノフェンといった鎮痛薬のように単独で痛みに対して使う薬ではなく、オピオイドなどの鎮痛薬と一緒に使うことでより痛みを抑えてくれる薬です。
また、「電気が走るような」、「焼けるような」などと言い表せる、いわゆる神経障害性疼痛のような特徴的な痛みに対して効果を発揮するような薬を鎮痛補助薬といいます。
「鎮痛補助薬」のメリット
鎮痛補助薬のメリットにはどのようなことがあるのでしょうか?
鎮痛薬で鎮痛効果が低い場合に活躍する
痛みが出現し鎮痛薬を使用しますが、ときどき鎮痛効果が十分でないときがあります。特に慢性的な痛みやしびれは通常の鎮痛薬だけでは効果が限定的になることがあります。このような場合に鎮痛補助薬を追加することで痛みの改善が期待できます。痛みが和らがなくて困っていた人には希望の星ですね。
鎮痛薬の減量が期待できる
痛みがあり鎮痛薬を使用して痛みは改善したけど、鎮痛薬の用量が多くて副作用が出てくることがあります。また、薬のお金がたくさんかかり、それが負担になる場合もあります。そのような場合に鎮痛補助薬を追加することで、もともと飲んでいた鎮痛薬が減り、鎮痛薬の副作用が現れなくなり、また薬のお金の負担が改善することが期待できます。副作用がなくなって、お金の負担が軽くなると安心しますね。
「鎮痛補助薬」のメカニズム
車で例えると、アクセルを緩めるのが【神経の興奮をなだめる・感作を和らげる】、ブレーキを強めるのが【防衛手段を活性化】です。
神経の興奮をなだめる・感作を和らげる
神経の興奮をなだめるのはNa⁺チャネル阻害薬やCa²⁺チャネル阻害薬があります。
Na⁺チャネルやCa²⁺チャネルを阻害することで神経の興奮をなだめて痛みを抑えます。
感作をやわらげるのはNMDA受容体阻害薬です(NMDAとは、N-methyl-D-asparateの略)。
感作とは、痛みの情報量が増えて、それが記憶されることをいいます。痛みを我慢し過ぎると痛みが改善しにくくなります。
NMDA受容体に神経伝達物質のグルタミン酸が作用し、痛みの増幅や感作がおこります。
NMDA受容体をブロックすることで、痛みの情報量が減るため痛みを抑えらることができます。
さらにNMDA受容体はオピオイドの耐性にも関係しています。NMDA受容体拮抗薬にはオピオイドの耐性を回復し鎮痛効果を高める効果があるとされています。弱くなっていたオピオイドの効果が戻ってくれるのは嬉しいですね。
防衛手段を活性化
自前の防衛手段を活性化するのはGABA神経系の活性化とSNRIです。
GABA(γーアミノ酪酸)神経系は抑制系として機能しています。GABA神経系を活性化することで過剰な神経の興奮が抑えられ痛みが和らぐ効果があります。イメージとしては車のブレーキを強めるようなものです。痛みに対するブレーキを強化することで、痛みを抑えることができます。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、痛みの管理において重要な役割を果たします。これらの薬剤は、下行性疼痛抑制系を活性化させることで、痛みを抑制する効果があります。下行性疼痛抑制系とは、痛みの信号が脳に到達するのを防ぐ防御機構のことです。痛みの信号は通常、感覚神経を通じて脳に伝わります(上行性)。しかし、下行性疼痛抑制系は、これらの信号が脳に到達する前に介入し、痛みの感覚を減少させる役割を担います。SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンの神経伝達物質の再取り込みを阻害することで、これらの伝達物質の量を増加させます。その結果、下行性疼痛抑制系が強化され、痛みの感覚が和らぎます。これは脳への痛みの信号を「迎え撃つ」ことにより、痛みを抑えるというイメージです。
炎症や浮腫をおさえる
炎症や浮腫をおさえるのはコルチコステロイドです(ここではステロイドと省略します)。
がんの痛みには炎症や浮腫による神経や臓器の圧迫が原因となることがあります。そのような痛みには抗炎症作用や抗浮腫作用があるステロイドが有効な場合があります。
「鎮痛補助薬」の注意点
鎮痛補助薬の使用する時の注意点を紹介します。
痛みに対して保険適応がない
鎮痛補助薬として使用されている薬の中には痛みに対する適応がない薬もあります。原則、痛みに対する適応がないとその薬は痛みを和らげるために使用できません。薬局からもらう薬の説明書に抗うつ薬や抗けいれん薬などと書かれていることあるかもしれないのでビックリしますね。痛みに適応がない薬を鎮痛補助薬として使用する場合は、他の医療者と相談や患者さんへの説明をきちんとしましょう。
研究データが不足している
鎮痛補助薬の中には痛みに対する効果が十分でない薬もあります。使用する場合は有効性や副作用などをきちんと患者さんへ説明してから使用しましょう。
「鎮痛補助薬」の種類
鎮痛補助薬にはどのような薬があるか紹介します。
抗うつ薬
例(一般名)|アミトリプチン、デュロキセチン
ガバペンチノイド
例(一般名)|プレガバリン、ミロガバリン
抗けいれん薬
例(一般名)|カルバマゼピン、クロナゼパム
局所麻酔薬・抗不整脈薬
例(一般名)|リドカイン
NMDA受容体拮抗薬
例(一般名)|ケタミン
コルチコステロイド
例(一般名)|デキサメタゾン、ベタメタゾン
まとめ
今回は新人薬剤師や看護師向けに鎮痛補助薬について解説しました。
分かりにくいところもあったかもしれませんが、少しでも鎮痛補助薬について理解できたでしょうか?
緩和医療でがん性疼痛に対しオピオイドを使用しても、痛みやしびれが十分に改善しないことを経験します。
そのような場合に鎮痛補助薬を上手に使って痛みを改善し、患者さんが快適な生活を遅れるようにしましょう。
参考書籍
がん疼痛緩和の薬がわかる本 第2版:医学書院
がん治療医が本当に知りたかった緩和ケアのレシピ:メジカルビュー社
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版:金原出版
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