病院薬剤師である私が緩和ケアにおける薬剤師の役割や多職種連携について解説していきます。
こんにちは~病院薬剤師のMoKaです。
「緩和ケア」と聞くと、医師や看護師のイメージが強いかもしれません。
しかし、薬剤師もまた、緩和ケアチームの中で患者さんのQuality of Life(QOL)向上に欠かせない重要な役割を担っています。
特に多岐にわたる薬剤の専門知識を活かし、患者さんの苦痛を和らげるための薬物療法を最適化することは病院薬剤師ならではの貢献です。
この記事では、緩和ケアにおける薬剤師の具体的な役割に焦点を当て、多職種連携の中でどのように患者さんを支えているのかを解説します。
学生の皆さんや若手医療従事者の方々が緩和ケアの現場で活躍するためのヒントを見つけ、薬剤師としてのスキルアップに繋がるきっかけとなれば幸いです。
緩和ケアとは?薬剤師の関わり方
緩和ケアという言葉、皆さんはどんなイメージを持っていますか?

もしかしたら「最期の時間を穏やかに過ごすためのケア」と思うかもしれませんね。
でも、実はそれだけではありません。緩和ケアは病気になった人が病気と付き合いながらも、体や心のつらい症状を和らげて、自分らしくより良い生活を送れるように支える医療なんです。
例えるなら、「人生という旅の途中で、つまずいたり、荷物が重くなったりした時に、そのつまずきを減らし、荷物を軽くするお手伝い」のようなもの。
病気が治るかどうかに関わらず、体や心のつらい症状(痛み、吐き気、だるさ、不安など)を和らげて、日々の生活を快適に過ごせるようにするんですね。
病気の初期段階から「つらいことがあればいつでも相談してね」という姿勢で関わっていくのが特徴です。
この緩和ケアチームの中で、私たち薬剤師は「薬の専門家」として参加します。
たくさんの薬の中から、患者さん一人ひとりに合った薬を選んだり、薬の量が多すぎたり少なすぎたりしないかチェックしたり、副作用が出ないように気をつけたりする「薬の司令塔」のような存在です。
病院薬剤師として私たちは緩和ケア病棟という特別な場所だけでなく、がんなどの病気で治療を受けている一般病棟の患者さんや、病院の外から通院している患者さんにも関わります。
例えば、痛みが強くて食事が食べられない患者さんがいれば、その痛みを和らげる薬を提案したり、吐き気がひどくてつらそうな患者さんには、吐き気を止める薬の種類や飲み方を提案したりします。
患者さんが「この薬のおかげで、昨日より楽になったよ」と言ってくれる瞬間は、薬剤師として最高の喜びですね。
疼痛マネジメント:オピオイドを中心に薬剤師がすべきこと
痛みを和らげることは、緩和ケアの中で最も大切なことの一つです。
痛みが続くと、ご飯も食べられないし、眠れないし、好きなこともできません。
薬剤師は患者さんの痛みを「薬」の力で和らげるお手伝いをします。
痛みの評価とオピオイドの基礎知識
まず、患者さんがどんな痛みを抱えているのかを知ることが大切です。
痛みの種類は「チクチク刺すような痛み」「ズキズキする痛み」「電気が走るような痛み」などいろいろあります。
例えるなら、「痛みという怪獣を倒す前に、どんな種類の怪獣なのか(ポケモンでいうと火や水などの属性)をしっかり見極める」ようなものですね。
患者さんには「今の痛みは0から10のどれくらい?」と尋ねたりして、痛みの強さを数字で評価してもらいます。
痛みを和らげる薬の中でも、特に主役となるのが「オピオイド」という薬です。
これは重い病気による強い痛みに対して使われる薬で、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど様々な種類があります。
これらの薬は「痛みの信号をブロックする魔法の鍵」のように働き、脳に痛みが伝わるのを防ぎます。
初めてオピオイドを使うときはまず少量から始めて、患者さんの痛みが和らぐまで少しずつ量を増やしていきます。
急に強い痛みが襲ってきた時には、「レスキュー薬」という、すぐに効く即効性のある薬も使います。
これは「いざという時に、すぐに助けてくれるヒーロー」のような存在です。
薬剤師はこれらの薬が患者さんに合っているか、適切な量が使われているかを常にチェックしています。
オピオイドの副作用マネジメントと対策
オピオイドは痛みを強力に和らげてくれますが、残念ながら「副作用」という少し困ったおまけがついてくることがあります。
代表的な副作用には、便秘、吐き気、眠気などがあります。これらの副作用を最小限に抑えるのも、薬剤師の大切な役割です。
例えば、便秘は多くの患者さんに出ると言われているので、オピオイドと一緒に便秘薬を必ず処方してもらうよう提案することが多いです。
患者さんやご家族には、これらの副作用が起こる可能性があることやその対策について分かりやすく説明します。
そうすることで、患者さんは安心して薬を使うことができますし、もし副作用が出ても「これは薬の副作用だから大丈夫」と落ち着いて対応できるようになります。
薬剤師の細やかな配慮が患者さんのQOL向上に繋がるのです。
多職種連携における薬剤師の貢献とコミュニケーション術
緩和ケアは決して一人の医療従事者だけでできるものではありません。
医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど、様々な専門家が力を合わせる「チーム医療」が基本です。
例えるなら、「患者さんという主人公を支える、それぞれの役割を持ったヒーローチーム」のようなもの。
薬剤師もこのチームの一員として、薬の専門知識で貢献します。
カンファレンスでの情報提供と提案
病院では患者さん一人ひとりの治療方針を決めるために「カンファレンス」という会議を定期的に行います。
ここでは各専門職が自分の視点から患者さんの状態について情報共有し、意見を出し合います。
薬剤師はこの会議で「薬」に関する最新情報や、患者さんに処方されている薬の評価、副作用のリスクなどを提供します。
例えば、「この患者さんは腎臓の機能が少し落ちているので、〇〇という薬は量を減らした方が良いかもしれません」「この組み合わせの薬だと、副作用が出やすい可能性があります」といったように、薬学的な視点から具体的な提案を行います。
事前に患者さんの情報をしっかり調べて、簡潔に分かりやすく話す準備をしておくことが大切です。
患者さん・ご家族への薬剤情報提供と心理的サポート
薬剤師の仕事は薬を渡すだけではありません。
患者さんやご家族に対して薬の効果や飲み方、注意すべき副作用についてできるだけ専門用語を使わずに分かりやすい言葉で説明することも非常に重要です。
特に緩和ケアでは患者さんやご家族は多くの不安を抱えています。
「この薬で本当に痛みが取れるの?」「副作用が怖いな」といった不安を傾聴し、共感的な姿勢で接することで、心理的なサポートも行います。
「この薬は痛みを和らげるお薬ですよ。もし眠気や便秘が出たら、いつでも教えてくださいね。対策も一緒に考えましょう」といった具体的な説明と、寄り添う気持ちが、患者さんの安心感と治療への理解を深めます。
これが薬をきちんと飲んでもらう「アドヒアランス」の向上にも繋がります。
医師・看護師との信頼関係構築
多職種連携を円滑に進めるためには、チームのメンバーである医師や看護師との良好な信頼関係が不可欠です。
信頼関係があれば困った時に相談しやすくなりますし、薬剤師からの提案も受け入れてもらいやすくなります。
信頼関係を築くためにはまず、日頃から誠実な態度で業務に取り組むことが大切です。
薬剤師としての専門知識をしっかり持ち疑問点や不明点があれば積極的に確認し、正確な情報を提供する姿勢が重要です。
また、相手の意見を尊重し感謝の気持ちを伝えることも忘れてはいけません。
薬剤師として主体的に行動し自分の意見をしっかり持ちながらも、チーム全体の目標達成のために貢献しようとする姿勢を見せることで、医師や看護師も「この薬剤師は頼りになる」と信頼してくれるようになるでしょう。
まとめ
緩和ケアにおける薬剤師の役割は薬物療法の専門家として、患者さんの身体的・精神的な苦痛を和らげQOLを最大限に高めることです。
この記事を通じて疼痛マネジメントからその他の症状緩和、そして多職種連携における具体的な貢献まで薬剤師が緩和ケアの最前線でいかに重要な存在であるかを理解いただけたことと思います。
学生の皆さんや若手医療従事者の方々がこの記事をきっかけに緩和ケア領域への興味を深め、将来的に患者さんにとって活躍されることを願っています。


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