オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)はがんの痛みや慢性的な痛みを管理するために広く使用されていますが、その使用には副作用が伴います。
多くの人々が知っている「悪心・嘔吐」や「便秘」といった副作用に加えて、「かゆみ」もまた、オピオイドの一般的な副作用の一つです。
この「かゆみ」は、患者さんの日常生活において大きな不快感を引き起こし、生活の質を著しく低下させる可能性があります。
かゆいのどうにかならないかな
この記事では「かゆみ」がなぜ起こるのか、そしてそれにどう対応すればよいのかを解説します。
オピオイドを扱うことがある医療者やオピオイド使用中の患者さんが知っておくべき重要な情報をお届けします。
オピオイドについて
オピオイドは手術後の痛みやがん患者さんの痛みをコントロールするために使用されています。
モルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどが有名です。
これらの薬剤は非常に効果的ですが、かゆみを含むいくつかの副作用があります。
- 便秘
- 悪心・嘔吐
- 眠気
- 呼吸抑制
- せん妄
- 排尿障害
- かゆみ
かゆみ(掻痒)とは?
かゆみ(掻痒)は皮膚表面や粘膜に生じて、掻きたいとの衝動を引き起こす不快な感覚です。
皮膚疾患だけでなく、肝臓や腎臓など臓器障害でもかゆみを引き起こすことがあります。
International Forum for the Study of Itchは病因の有無に基づくそう痒症の2段階分類システムを提案しています。
病因がわかっている場合、そう痒症はさらに皮膚性、全身性、神経性、心因性、および混合性のカテゴリーに分けられます。
オピオイドとかゆみの関係は?
オピオイドによるかゆみをオピオイド誘発性そう痒症(opioid-induced pruritus: OIP)といいます。
慢性的なオピオイドを服用している患者の2〜10%でかゆみが観察されていますが、そのメカニズムは十分に解明されていません。
モルヒネは肥満細胞からヒスタミンを放出すると報告されています。
しかし、フェンタニルなどの他のオピオイドはヒスタミンの放出をあまり引き起こさないとされていますが、それでもかゆみが出現することがあります。
かゆみの発生頻度
慢性的なオピオイドを服用している患者さんの2〜10%でかゆみが観察されています。
オピオイドの硬膜外投与やくも膜下投与では、他の投与経路に比べてかゆみが高率に認められるそうです。
この反応では脊髄後角のオピオイド受容体を介した機序が考えられています。
対策と治療法
ではオピオイドによるかゆみに対してどのような対策があるのでしょうか?
がん疼痛薬物療法に関するガイドライン2020年版(日本緩和医療学会)によると、可能であればオピオイドスイッチングを検討するようにとされています。
オピオイドスイッチングとは、オピオイドの副作用により鎮痛効果を得るだけのオピオイドを投与できないときや鎮痛効果が不十分なときに、投与中のオピオイドから他のオピオイドに変更することをいいます。
例えばモルヒネを投与していた場合、オキシコドンやフェンタニルに変更することがオピオイドスイッチングです。
かゆみに対するオピオイドスイッチングの効果を示す下記のような報告もあるので、是非参考にしてください。
ヒドロモルフォン剤型変更でかゆみを生じ,フェンタニル貼付剤へのスイッチング後にかゆみが消失した1症例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/19/1/19_23-00051/_article/-char/ja
かゆい=アレルギーといえば抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)ですが、OIPによるかゆみの原因はヒスタミン放出に関係していないため、抗ヒスタミン薬はあまり推奨されておりません。
しかし、抗ヒスタミン薬の鎮静効果はかゆみの症状のために眠れない患者さんにとって有益な効果をもたらす可能性があるので、使用してみる価値はあると思っています。
適応外使用になりますが、5-HT3拮抗薬のオンダンセトロンがOIPに対して有効かもしれないという報告があります。
まとめ
オピオイドによるかゆみは不快であり、時には治療の中断を余儀なくされることもあります。
しかし、適切な対処法と治療を行うことでかゆみを管理し、快適な治療を続けることが可能となります。
医療者はオピオイド使用している患者さんに関わる時に、吐き気や便秘だけでなくかゆみについても確認してみましょう。
参考文献
- がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版:日本緩和医療学会
- 緩和医療薬学 改訂第2版:日本緩和医療薬学会
コメント