緩和薬物療法認定薬剤師が一般の総合病院で緩和ケアに対してどのように向き合って働いているかを解説します。
こんにちは!病院薬剤師のMoKaです。
緩和ケア専門の病院ではない、一般の総合病院で働いている緩和薬物療法認定薬剤師がどんなことをしているか紹介します。
自分はとある地方の総合病院に勤めている薬剤師です。
緩和医療に興味を持ち、2023年に緩和薬物療法認定薬剤師の資格を取得しました。
緩和ケアの専門病院でない、ホスピスでもないところで緩和薬物療法認定薬剤師がいても意味がないんじゃないの思われていませんか?

緩和ケア専門でもない病院で、緩和薬物療法認定薬剤師が何をするの?
実際にそんなことを言われることもありますし、資格を持っていても緩和ケア専従で働くことはできないと思っています。
しかし、絶対数は緩和ケアを専門にしている病院よりは少ないですが、緩和ケアを必要としている患者さんは必ずいます。

緩和ケアを必要としている患者さんはがん患者さんだけではありません!!
心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、いろいろな疾患の患者さんが緩和ケアを必要としています。
- 心不全などの循環器疾患
- COPDなどの呼吸器疾患
- ALSなどの神経難病
また、提供する緩和ケアも病院によっていろいろ役割があります。
診断時からの緩和ケア、がん治療中の緩和ケア、終末期の緩和ケアなどなど。
その病院ができる緩和ケアを提供することができます。
ですので、自分が働いているような一般の総合病院でも緩和薬物療法認定薬剤師は必要です。
実際、自分は働いている病院の院長などにきちんと許可を取り、緩和ケアチームを立ち上げました。
これは病院としても緩和ケアが必要だと認めていることだと思います。
もし、緩和医療に興味があるけど職場で必要とされていないのかなと不安に思っている薬剤師やその他の医療者の人がいれば安心してください。
緩和ケアに場所は関係なく、これから必ず必要な医療です。
少し前置きが長くなりましたが、そんな不安な人に少しでも勇気づけられるように、自分がどのように緩和薬物療法認定薬剤師として働いているかを紹介していきます。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
大坂 巌, 渡邊 清高, 志真 泰夫, 倉持 雅代, 谷田 憲俊, わが国におけるWHO緩和ケア定義の定訳─デルファイ法を用いた緩和ケア関連18団体による共同作成─, Palliative Care Research, 14(2), 61-66, 2019.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/14/2/14_61/_article/-char/ja

緩和ケアの対象となる人はがん患者さんだけではありません。
「生命を脅かす病」とありますので、がん以外の疾患(心不全、COPD、ALSなど)も対象です。
また、定義では患者さん本人だけでなく患者さんの家族にも緩和ケアを提供すべきとされています。
一番つらい思いをされているのは患者さん本人ですが、家族もさまざまな苦痛を感じており、その苦痛を緩和することはとても大切なことです。
緩和ケアを提供する時期も大切です。
終末期から提供するものではなく、早期(診断時)から適切に緩和ケアを提供するようになっています。
緩和医療における薬剤師の役割とは
緩和医療には多くの医療従事者が関わるが,薬剤師の役割において特に焦点を当てるべきプロフェッショナリズムは,土台となる“臨床薬物療法の知識”であり,常に最新かつ十分なエビデンスに基づくアセスメントができる“卓越性”を柱に処方設計できることが重要である.
そのためには,土台の1つである“コミュニケーション”で患者をよく観察してどの苦痛やニーズを傾聴,確認しチームで共有し,鎮痛法や支持療法の薬剤への不安や不満を払拭し,アドヒアランスを高められる情報提供力が“説明責任”を果たすことになる.
緩和ケアとは,身体的,心理的,社会的,またはスピリチュアルな側面を含めて,生命を脅かす疾患がもたらす困難を抱える患者とその家族,そして介護者のQOLも改善することであり、そこでの薬剤師の役割は,人間性と利他主義をもって専門性を発揮することであるといえる.日本緩和医療薬学会:緩和医療薬学 改訂第2版
薬剤師が緩和ケアでどのような役割があるかというと、すぐに思いつくのはがん疼痛治療ではないでしょうか?
疼痛=医療用麻薬という具合に薬剤師が薬物療法で関わりやすいところだと思います。

疼痛だけが患者さんの苦痛ではありません。
悪心・嘔吐、便秘、倦怠感、不眠、うつ、せん妄など疼痛以外の身体的・精神的苦痛も出現します。
そのような苦痛に対して、適切な薬物療法を用いて苦痛を和らげることは非常に大切です。
また、身体的・精神的苦痛だけでなく、社会に対する役割や病気に対する考えなどの社会的・スピリチュアルな苦痛にも、薬剤師としてきちんとコミュニケーションをとり患者さんと良好な関係を作ることも大切です。
- 身体的苦痛:痛み・悪心・呼吸困難などの身体症状、日常生活動作の支障
- 精神的苦痛:不安、不眠、いらだち、うつ状態
- 社会的苦痛:経済的な問題、仕事上の問題、家庭内の問題、医療者との関係
- スピリチュアルな苦痛:生きる意味・価値、死への恐怖、自責の念、家族への負担感
緩和薬物療法認定薬剤師とは
緩和薬物療法認定薬剤師は一般社団法人 日本緩和医療薬学会が認定する資格です。
2009年から始まった制度で、2024年5月の時点で870名が認定されています。
緩和薬物療法認定薬剤師は緩和医療に携わる職種の方々の緩和薬物療法に関する知識と技術の向上、並びにがん医療の均てん化に対応できる人材の育成を目指し、緩和薬物療法に貢献できる知識・技能・態度を有する薬剤師に認定されます。
認定を取得するためには、「書類審査」と「試験」があります。
書類審査について
以下が緩和薬物療法認定薬剤師の募集要項になります。
緩和薬物療法認定薬剤師認定試験を受験する者は、次の各項の条件をすべて満たす必要がある。
ⅰ.日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた見識を備えていること。
ⅱ.申請時において、薬剤師としての実務歴を3年以上有する本学会の会員であり、締め切り期日までに当該年度までの年会費を完納していること。
ⅲ.申請時において、下記のいずれか一つ以上の資格を有していること。
・日病薬病院薬学認定薬剤師
・日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
・日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師
・薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師ⅳ.申請時において、引き続いて1年以上、緩和ケアチームまたは緩和ケア病棟を有している病院、診療所等のいずれかの施設において緩和医療に従事している薬剤師であること(所属長の証明が必要)、あるいは申請時において、引き続いて1年以上、麻薬小売業者免許を取得する保険薬局等に勤務し、緩和医療に従事していること(薬局開設者の証明が必要)。
ⅴ.申請時3年以内で、かつ、本会会員として認定対象となる講習等を所定の単位(計60単位、毎年20単位)以上履修していること。申請時3年以内に、がん疼痛緩和のための医療用麻薬適正使用推進講習会(厚生労働省、麻薬・覚せい剤乱用防止センター等主催)に1回以上参加していること。
ⅵ.薬剤師として実務に従事している期間中かつ申請時点までに、本学会年会において緩和医療領域に関する学会発表(一般演題)を発表者として1回以上行っていること。
ⅶ.緩和医療領域薬剤管理指導の実績について本学会所定の様式に従い6症例提示できること。提出する症例報告において初回介入が過去3年以内であること。
ⅶ.所属長(病院長あるいは施設長等)または保険薬局においては開設者の推薦があること。
ⅷ.上記 ⅰ~ⅷのすべてを満たした者は、本学会が行う緩和薬物療法認定薬剤師認定試験に申請することができる。
日本緩和医療薬学会認定 緩和薬物療法認定薬剤師 2025年度(第16回)認定試験要項より引用
- ⅲの附則 申請時点において、他学会認定資格証明が届かずに提出が不可能な場合は、後日提出にて可とする。事務局へ11月28日までにメール提出のこと。
- ⅵの附則1 本第16回募集に限り、別に規定する他学会学術集会緩和医療領域に関する学会発表も可とする。
- ⅵの附則2 地域緩和ケアネットワーク研修中に実施された症例発表も提出可とする。この場合様式7に、症例発表要旨のほか、研修内症例発表会の開催や内容を証明できる書類を統合しアップロードすること。
- ⅶの附則 保険薬局薬剤師は、地域緩和ケアネットワーク研修先病院における症例を含めてよい。この場合様式3へ、ネットワーク研修修了書または報告書を統合しアップロードすること。
2025年度(第16回)の認定試験から大幅に変更となりました。
注目点は、緩和医療領域薬剤管理指導の実績(いわゆる症例報告)です。
2024年度までは病院等で勤務する薬剤師は30症例、保険薬局で勤務する薬剤師は15症例を提出しないといけませんでした。
しかし、2025年度からは勤務先に関わらず、6症例でよいことになりました。

自分が取得したときは、病院勤務なので30症例準備するのに苦労しました。
症例報告数は減りましたが、しっかりとした介入内容が求められているのではないでしょうか。
その他にも変更点があるので、受験される人はチェックしておきましょう。
試験について
以下が、CBT試験の試験範囲です。
・緩和医療薬学(南江堂)改訂第2版
・がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版(※)
・がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018年版(※)
・がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版(※)
・がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年版(※)
・がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会,金原出版)
(※)いずれも、日本緩和医療学会編,金原出版日本緩和医療薬学会認定 緩和薬物療法認定薬剤師 2024年度(第15回)認定試験要項
上記の出題範囲から選択方式で40問出題されます。
多くのガイドラインなどから出題され、全部購入しないといけないのと思ってしまいますが、緩和医療薬学以外はHP上に無料で公開されていますのですべて購入する必要はありません。
あと、残念ながら過去問はありません。
受験経験者に聞くことが一番の近道かもです。
一般の総合病院での緩和薬物療法認定薬剤師
ここから一般の総合病院で緩和薬物療法認定薬剤師がどのように患者さんに関わっているか解説します。
「入院患者さん」と「外来患者さん」に分けて解説します。
入院患者さんへの関わり

入院患者さんへ緩和薬物療法認定薬剤師としてどのように関わっているか解説します。
自分は病院内で働いているため、入院患者さんへの関わりが多いです。
特にがん患者さんへの薬物療法への関わりが多いですが、最近はがん以外の疾患や薬物療法以外でも関わることがあります。
例えば、肝硬変の患者さんで終末期であり腹水貯留のため苦痛を感じているケース、心不全で入院中の患者さんで今後の療養について患者さん本人へ意思を確認したいがどのように確認したらよいかの相談などです。
がん以外の疾患に対する緩和ケアの必要性や患者さんの意思決定支援の重要性が広まってきたことは、自分が緩和薬物療法認定薬剤として活動してきた成果だと感じています。
また、自分は緩和ケアチームの立ち上げも行いました。
これは自分だけの力でなく、多くに方々にご協力いただいたお陰です。
チームを立ち上げるまでにメンバーの確保や活動内容・規則の作成、他の病院への見学などを行いました。
無事にチームが立ち上がった後は、回診やカンファレンスの進行、資料作成などを行いチームがきちんと活動できるようにしています。
緩和ケアに興味や関心がある医療者はたくさんいると思いますが、自分の業務が忙しくて考える時間がない人がいます。
そのような人たちに緩和ケアについて教育をしていくことも、緩和薬物療法認定薬剤の役目だと思っています。
外来患者さんへの関わり

続いて、外来患者さんへ緩和薬物療法認定薬剤師としてどのように関わっているか解説します。
病院薬剤師は入院患者さんだけではなく、外来患者さんの薬剤指導を行うこともあります。
薬剤指導を行う場合は医師や看護師からの依頼が多いですね。
自分の働いている病院では外来患者さんの薬は院外処方がほとんどなので、基本的に外来患者さんと関わることはありません。
ですが、「この薬は病院内で1度指導を行った方が良いではないか」、「この患者さんは心配だから1度病院内で指導を行っておこう」と医師や看護師が判断した場合は、外来患者さんにも薬剤指導を行うことがあります。
自分の働いている病院では外来でオピオイド鎮痛薬を導入する多くの場合、薬剤師へ連絡してくれます。
連絡をもらうとすぐにカルテを確認や指導の準備をし、患者さんのところに薬剤指導に行きます。
指導内容は入院患者さんの場合と変わりはありませんが、気を付けていることは緊急時の対応です。
入院中であればカルテを見たり、患者さんの病室を訪問したりと毎日患者さんの状態を確認できますが、外来患者さんの場合はそうはいきません。
薬をもらって自宅に帰り、服用し始めたけど調子が悪い、どうしたらいいんだろうと患者さんは迷ってしまいます。
そうならないように、あらかじめ病院を受診する目安や連絡先などをきちんと伝えておくと患者さんは安心されると思います。
ですので、緊急時の対応について患者さんに伝えておくことはとても大切です。
まとめ
今回の記事では、一般の総合病院で働く緩和薬物療法認定薬剤師について解説しました。
緩和ケア専門の病院でなくても薬剤師として緩和ケアを患者さんに提供することはできます。
働く場所は関係ありません。
何かできない理由を探すのではなく、できる方法を探してみませんか。
自分にもできたので、この記事を読んでくださるくらいやる気がある人ならできるはずです!!
今回の記事を読んで少しでも勇気づけられ、緩和ケアに関わりたいと思ってくれる薬剤師が増えることを願っています。
本記事を最後までくださりありがとうございました。
以下に、自分が緩和ケアで使われる鎮痛薬について勉強するときに愛用している書籍を載せています。
とても読みやすいのでぜひ手にとって読んでみてください。
また、レビュー記事も書いているのでまだ見たことない人はそちらもどうぞ。
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