こんにちは~病院薬剤師のMoKaです。

◯◯さん、緩和ケアに関わってもらいますね
そんなふうに急に言われたこと、ありませんか?
「緩和ケアってどんなことをすればいいの?」「今まで勉強したことないよ…」
そんなふうに戸惑ったり、不安に思ったりする方も多いと思います。
私自身もそうでした。
「自分に何ができるんだろう」「ちゃんと寄り添えるのかな」――そんな気持ちを抱えながら、緩和ケアに関わるようになりました。
実際に現場に入ってみると、学生時代に習った医療用麻薬の知識や疼痛評価だけでは対応しきれない場面がたくさんありました
この記事では私が緩和ケアに関わり始めたときに戸惑ったこと、現場で気づいた「知っておきたかった5つのヒント」をまとめました。
- 緩和ケア=終末期ではないと知る
- コミュニケーションが想像以上に大事
- よく使う薬は“思ってたのと違う”
- “その人らしさ”に寄り添うということ
- チーム医療の本当の意味を知る
緩和ケア病棟にいなくても薬剤師としてできること、求められる視点はたくさんあります。
この記事が、同じように悩む新人薬剤師の方のヒントや励ましになれば嬉しいです。
緩和ケア=終末期ではないと知る
「緩和ケアって、亡くなる直前の人に関わるケアなんでしょ?」
私も最初は、そんなイメージを持っていました。
いわゆる“看取りのケア”という印象が強くて、そこに薬剤師としてどう関わればいいのか正直わかりませんでした。
でも実際には、緩和ケアは終末期だけのものではないということを、現場で学びました。
がんと診断されたときから始まるサポート。
痛みだけでなく、吐き気や倦怠感、便秘、不眠など、日常生活に支障をきたすさまざまな症状に対して、患者さんの“生活の質(QOL)”を保つためのケア。
それが緩和ケアなんです。
「治療のための薬」だけではなく、「つらさを和らげる薬」も大切。
そしてその薬の選択や調整には、薬剤師の視点がとても重要です!!
特に外来の患者さんや抗がん剤治療中の方など、元気に見えるけれど実は副作用や不快な症状に悩まされている方はたくさんいます。
そうした患者さんに少しでも早く、快適な日常を取り戻してもらうために緩和ケアの視点を持つことはとても大切だと感じました。
緩和ケアは「死に向かう医療」ではなく、「その人らしく生きる医療」なんだと気づいた瞬間、薬剤師としての関わり方も大きく変わりました。
コミュニケーションが想像以上に大事
緩和ケアに関わり始めたとき、私は「まずは薬の知識をしっかり固めよう」と思っていました。
医療用麻薬の使い方、副作用、換算表…勉強することはたくさんあります。
でも実際に患者さんやご家族と関わってみて、それ以上に大切なのは“コミュニケーション”なんだと痛感しました!!
たとえば、ある患者さんが「最近、痛み止めが効いてない気がする」と言ったとき。
ただ「じゃあ用量を増やしますね」と返すのは簡単です。
でも、そこで一呼吸置いて「どんなときに痛みが強くなりますか?」「このお薬、いつもどのタイミングで飲んでいますか?」と、少しだけ掘り下げて聴いてみると、本当の困りごとや不安が見えてくることがあります。
逆に私たち薬剤師が伝えたいことも、ただ言葉を並べるだけでは伝わりません。
「この薬にはこういう副作用がありますよ」も大切ですが、「この薬を使うと、つらさが少しでも軽くなると思います。一緒に調整していきましょうね」と、安心感や信頼感を持ってもらえるような伝え方がもっと大切だと感じました。
緩和ケアでは、患者さんだけでなくご家族とも関わることがあります。
「薬の話なのに、こんなに心の準備が必要なのか…」と戸惑うこともありましたが、
“聴く姿勢”と“寄り添う気持ち”は薬剤師にとっても欠かせないスキルなんだと思います。
薬の専門性だけでなく「この人に話してよかった」と思ってもらえるような関わり方ができるよう、これからも丁寧な対話を心がけていきたいです。
よく使う薬は“思ってたのと違う”
緩和ケアと聞くと、まず思い浮かぶのが「医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)」ではないでしょうか?
私も緩和ケアに関わり始めたばかりの頃、「まずはオピオイドの使い方を完璧にしよう」と思って参考書などを読み返しました。
オピオイドの使い方を勉強するためによく読んだ書籍がこちらです。
もちろん、オピオイドの種類や用量、換算方法、副作用対策などの知識はとても大事です。
でも実際の現場では、それだけでは対応できない場面がたくさんありました。
たとえば、「痛みがある」と訴える患者さんがいても、それが本当に身体的な痛みなのか、それとも不安や孤独からくる“心の痛み”なのか――。
同じ「痛い」という言葉でも、背景はまったく違うことがあります。
そんなとき、「この患者さんには何が起きているんだろう?」「本当に薬が必要なんだろうか?」と、一歩踏み込んで考える視点が必要でした。
また、患者さんが「この薬、あんまり効いてない気がする」と言ったときも、
「では用量を増やしましょう」だけで終わらせずに、「飲み忘れていないか」「飲み方に問題はないか」「他に原因はないか」などを確認する姿勢が大切だと感じました。
緩和ケアでは数字で測れない“つらさ”と向き合うことが多くあります。
だからこそ患者さんの表情や声のトーン、ちょっとした仕草や言葉の裏にある気持ちを汲み取る“観察力”や“想像力”が、薬剤師にも求められるんだと思います。
私自身まだまだ学びの途中ですが、「薬の知識だけでは足りないんだ」と気づけたことは、緩和ケアに関わる上での大きな一歩でした。
“その人らしさ”に寄り添うということ
緩和ケアに関わるようになって、何度も耳にするようになった言葉があります。
それが「その人らしさを大切にする」ということ。
でも最初のうちは、「その人らしさって、具体的にどういうこと?」と、正直ピンときていませんでした。
ある日、消化器がんの治療を終えた患者さんが在宅移行に向けて退院準備を進めているときでした。
その方は「最期まで自分の家で過ごしたい」という強い希望がありました。
でも、ご家族は「家だと何かあったとき不安です」と心配されていて、調整は簡単ではありませんでした。
そんなとき、担当の看護師さんが「○○さん、おうちではどんな時間を過ごしたいんですか?」と尋ねました。
すると、患者さんは穏やかな表情で「庭に出て、孫と一緒にトマトを育てたいんですよ」と話されたんです。
その言葉に、ハッとしました。
「治療」や「管理」だけでなく、患者さんが“どんな時間を過ごしたいのか”“どう生きたいのか”という視点こそが、“その人らしさ”なんだと、初めて腑に落ちた瞬間でした。
薬剤師の立場からも、「苦痛を最小限にしてあげたい」「副作用を防ぎたい」という気持ちは当然あります。
でも、患者さんが“今”をどのように過ごしたいか、その希望に合わせた薬の提案や調整ができると、薬もその人の人生に寄り添えるツールになると感じています。
たとえば、
- 眠気が強くなる薬を避けたい → 午前中だけ控えめに使う
- 飲み薬がつらくなってきた → 貼付剤や注射剤に変更を検討する
こうした対応一つひとつが、「その人らしい時間を支える」ことにつながるのではないでしょうか。
緩和ケアは、患者さんの“生き方”に触れる医療。
その人がどう生きたいかを大切にしながら、薬剤師としてできることを見つけていきたい――。
そう思えるようになったのも、緩和ケアに関わるようになってからです。
チーム医療の本当の意味を知る
緩和ケアに関わるようになって、最も強く実感したことのひとつが「チーム医療の大切さ」です。
もちろん、学生時代にも「チーム医療の重要性」は何度も学びました。
けれど、実際に現場で経験するチーム医療は想像以上に深く、繊細で、あたたかいものでした。
チーム医療の本当の意味を私なりに4つ紹介します。
他職種との「対話」がカギになる
緩和ケアでは医師、看護師、リハビリ、MSW(医療ソーシャルワーカー)、臨床心理士、管理栄養士などさまざまな専門職が患者さんを支えます。
その中で薬剤師ができることは、薬の管理や副作用の評価だけではありません。
たとえば――
- 「夜になると痛みが強くなるみたい」と看護師さんが教えてくれた
- 「少し食べられるようになった」と管理栄養士さんが共有してくれた
- 「この患者さんは“家に帰りたい”って何度も言ってます」とMSWさんが話してくれた
そんな何気ない会話の中に、薬剤師としてできる提案のヒントが隠れていることが多いのです。
薬の話だけで終わらない「関わり」
以前、ある患者さんの吐き気のコントロールがうまくいかず、処方変更を提案したことがありました。
その際、看護師さんから「食事の前に特に気持ち悪いみたい」と教えてもらったおかげで、投与タイミングを調整し症状がぐっと改善しました。
「薬の知識」+「現場の視点」=より良いケアが生まれる。
これこそが、薬剤師としてチームに加わる意味だと感じました。
一人で抱えなくていいという安心感
緩和ケアではつらい場面や答えのない問いに直面することも多くあります。
「この薬で本当によかったのかな」「患者さんは納得してくれているかな」と悩むこともあります。
でも自分の感じたことや考えたことを、遠慮なくチームで共有できる。
それが緩和ケアにおけるチーム医療の素晴らしさだと実感しています。
チーム医療=「一緒に悩んで、一緒に進むこと」
私は緩和ケアの現場で初めて「チームで支える」という言葉の本当の意味を体感しました。
それは役割を分担することではなく、想いを共有し患者さんの人生に寄り添うために一緒に悩むこと。
薬剤師である前に、一人の人間として関わる――
そんな姿勢をチームで育めることが、緩和ケアの大きな魅力だと思います。
おわりに
振り返ると私が緩和ケアに関わり始めたころは、とにかく不安と緊張の連続でした。
「こんな自分に何ができるんだろう」 「患者さんのつらさをちゃんと理解できてるのかな」 「専門的なことをきちんと伝えられているかな」
そんな中で、経験を積みながら少しずつ気づいたこと、そして「あのときにこれを知っていたら、もう少し安心できたかも」と思ったことを、“新人薬剤師の自分に伝えたい5つのヒント”としてまとめました。
- 緩和ケア=終末期ではないと知る
- コミュニケーションが想像以上に大事
- よく使う薬は“思ってたのと違う”
- “その人らしさ”に寄り添うということ
- チーム医療の本当の意味を知る
新人のころの私にとって、緩和ケアは「難しい」「重い」と感じるものでした。
でも今では「人の命の時間に、薬剤師として関われることはとても尊いことだ」と思っています。
もしこの記事を読んでくださった方があの頃の私と同じように不安や戸惑いを感じているなら、 「焦らなくて大丈夫」「一歩ずつでいいよ」と伝えたいです。
一人でも多くの薬剤師さんが自分らしく緩和ケアに関われますように。
そして、その優しさが患者さんやご家族に届きますように。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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